Citations:動悸

Japanese citations of 動悸

1892, 黒岩涙香, 血の文字:

殊に老人の傷処を検め見れば咽を一突にて深く刺れ「苦」とも云わずに死せしとこそ思わるれ、曲者の去りたる後まで生存えしとは認む可からず、笑の浮みしは実際にして又道理なり、血の文字を書きしとは、如何に考うるとも受取られず、あゝ余は唯是だけの事に気附てより、後にも先にも覚なき程に打驚き胸のうち俄に騒ぎ出して、轟く動悸に身も裂くるかと疑わる。
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1895, 泉鏡花, 夜行巡査:

八田巡査はこれを見て、躊躇するもの一秒時、手なる角燈を差し置きつ、と見れば一枝の花簪の、徽章のごとくわが胸に懸かれるが、ゆらぐばかりに動悸烈しき、お香の胸とおのが胸とは、ひたと合いてぞ放れがたき。
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1896, 広津柳浪, 今戸心中:

冷遇ながら産を破らせ家をも失わしめたかと思うと、吉里は空恐ろしくなッて、全身の血が冷え渡ッたようで、しかも動悸のみ高くしている。
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1909, 泉鏡太郎, 神鑿:

雪枝はハツと身を伏せて、巌に吸込まれるかと呼吸を詰めたが、胸の動悸が、持上げ揺上げ、山谷尽く震ふを覚えた。
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1910, 国枝史郎, レモンの花の咲く丘へ:

女子　ね、もう胸の動悸も直ったでしょう。
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1911, 森鴎外, 雁:

お玉は父親と顔を見合せて、急に動悸のするのを覚えた。
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1915, 上司小劍, 兵隊の宿:

胸に動悸を打たせつゝ、お光はこんなことを考へて、耐まらなくなつた。
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1920, 菊池寛, 真珠夫人:

「お父様！」と、上ずツた言葉が、彼女の唇を洩れると共に、彼女は暫らくは失神したやうに、父の懐に顔を埋めたまゝ烈しい動悸を整へようと、苦しさにあへいでゐた。
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1923, 芥川龍之介, お時儀:

保吉はお嬢さんの姿を見ても、恋愛小説に書いてあるような動悸などの高ぶった覚えはない。
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1924, 岸田國士, 春秋座の「父帰る」:

扨て、私は、そつと涙をふいて、息苦しい胸の動悸を鎮め、徐ろに、何の為めに自分がこゝに来てゐるのかを考へた。
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1925, 夢野久作, 東京人の堕落時代:

記者の胸の動悸が急に高くなって、又次第に静まって来た。
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1927, 北原白秋, 日本ライン:

心音の動悸が止まぬのに、またしても一羽、右手の駱駝岩の第一の起隆の上に、厳然としてとまつてゐる。
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1928, 嘉村礒多, 業苦:

圭一郎は胸の動悸を堪へ、故郷の妹からの便りの封筒の上書を、充血した眼でぢつと視つめた。
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1931, 林芙美子, 清貧の書:

銅貨がちょうど二十枚で、拾銭の穴明き銭と五拾銭銀貨が一枚ずつ、私の胸はしばらくは子供のように動悸が激しかった。
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1932, 橋本五郎, 小曲:

田中君の胸はいつかトキントキンと動悸を打っていた。
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1934, 田中貢太郎, 黄燈:

不意に人声がしたので主翁はびっくりして、動悸をさしながら透して見た。
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1935, 島木健作, 一過程:

はつと思ふともうはげしく動悸が來た。
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1940, 伊東静雄, 詩集夏花:

何故とも知らずひどく動悸うつのを感ずる。
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1942, 海野十三, 暗号音盤事件:

先登に駈けあがって来た娘の顔を見て、私の心臓は少し動悸をうった。
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1946, 織田作之助, 土曜夫人:

そして、貴子の胸の動悸を冷静に聴いていた――のだから、「見にくい時計ですね」という言葉に「醜い」という意味を含ませたのは、春隆にわずかに残っていた自嘲の精神だろう。
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1947, 宮本百合子, 二つの庭:

その声々は、伸子の動悸をたかめる響きを持っていた。
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1954, 久生十蘭, あなたも私も:

サト子は、こんな清潔な肌の色も、こんなによく澄んだ目の色も、生れてから、まだいちども見たことがなかったと思い、かねて夢想していた、この世の美しいものにはじめて出会ったような気がし、ひとりでに動悸がはやくなった。
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